障害福祉マーケットは年々拡大していますが、その中身について理解していきましょう。
・障害福祉サービス等予算の推移
下の図は、障害福祉サービス等予算の推移です。
(図:厚生労働省 09_参考資料_障害福祉分野の最近の動向_0120
https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000591643.pdf)
障害福祉事業の市場(マーケット)を理解しましょう。
図を見ると、平成19年の時点で福祉予算は5,300億円、平成31年で1兆5千億円ですので、およそ10年で1兆円増えています。あとで違和感を覚える方もいると思うので、あらかじめ説明しますが、この福祉予算額のほぼ倍が市場(マーケット)です。なぜかというと、障害福祉の予算には、国の負担と自治体の負担があるからです。国と自治体で半分ずつ負担しています。この図は、国の予算推移なので、これを倍にした金額が実際の福祉事業のマーケット規模です。
ご覧のように障害者の人数は増えています。疾患の数や発達障害など、障害の種類も増えています。給付費は約10年で3倍の1兆円増えています。
また、病院の診療報酬は現在、40兆円です。このまま高齢化に伴って、医療費が増加し続けると、あっという間に50兆円となります。それなので、一般の病院も早期退院を促す流れになっています。障害分野だと、精神病院からの早期退院が促進されています。しかし、早期退院をただ促すだけでは、病院も経営なので退院につながりません。そのために国は、診療報酬を上げ下げし、その匙加減により退院を促進させています。ですので、病院からの退院者数は増加しています。
親が80歳で子が50歳(8050問題)、親が70歳で子が40歳(7040問題)とは、高齢の親が中高年になった子の経済的支援が難しくなることをいいます。背景にあるのは子どもの「ひきこもり」ですが、特に子が障害を持っていると、親が高齢になるにつれ世話をしきれなくなります。そこで、その肩代わりを誰かにして欲しいという、障害福祉サービスへのニーズが高まっています。
上記が、福祉予算が増大していることの一般的な解釈です。
障害福祉の観点から見ると、障害者自立支援法により支援費制度ができ、障害者自立支援法が悪法だったことで、障害者総合支援法ができました。障害者総合支援法ができたことにより、民間の福祉事業者が増えました。その事業者が障害福祉サービスへのニーズを掘り起こしている面があることも否定できません。
ニーズは高まっている上に、そのニーズをさらに事業者が掘り起こしていることで、福祉予算は増え続けています。
・障害者の数
(図:厚生労働省 09_参考資料_障害福祉分野の最近の動向_0120
https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000591643.pdf)
上の図は、平成28年(在宅)、平成27年(施設)の調査結果なので、若干古いデータですが、障害者総数が936.6万人(人口の約7.4%)です。見て分かるように、圧倒的に在宅障害者の人数が多いです。特に身体障害者は428.7万人(98.3%)とほとんどが在宅の方です。身体障害者の人数は、高齢化により身体障害者となる方がいるので、年々増えています。知的障害者の人数も、平均寿命が延びていることから、実は年々増えています。
圧倒的に増加しているのは精神障害者の人数です(在宅精神障害者が361.1万人と入院精神障害者31.1万人で合計392.4万人)。
そして、年齢別の図を見ると明らかですが、身体障害者数は65歳以上が大半です(全体の74%)。また、認知症の高齢者は、65歳以上の精神障害者(全体の38%)に含まれます。
・利用者数の推移
(図:厚生労働省 09_参考資料_障害福祉分野の最近の動向_0120
https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000591643.pdf)
※上の図が最新。平成30年9月から令和元年9月の伸び率。
上の図は6ヶ月毎の利用者数推移です。平成30年9月から令和元年9月の伸び率(年率)を見ると、6.4%ですので、この状態が10年続くと、利用者が64%増えることになります。
これをさらに分解すると
身体障害者の伸び率…… 1.5% 身体障害者…… 22.1万人
知的障害者の伸び率…… 3.1% 知的障害者…… 40.8万人
精神障害者の伸び率…… 8.8% 精神障害者…… 23.8万人
障害児の伸び率 …… 11.0% 難病等対象者… 0.3万人(3,276人)
障害児 …… 36.0万人(※)
(※障害福祉サービスを利用する障害児を含む)
となり、障害児の伸び率が高いのが分かります。
・介護給付と保険料の推移
(図:厚生労働省 介護保険制度を取り巻く状況
さらに、上の図は介護給付と保険料の推移です。2000年に介護保険制度ができ、この図は2017年までのデータですが、ぴったり3倍増加しています。
・なぜ国は患者を退院させるのか?
(図:マネーコラムMoney&Investment 日経
https://style.nikkei.com/article/DGXMZO32105120S8A620C1PPD000/)
先ほども書いたように、福祉予算は国が50%、自治体が50%負担しています。平成30年度で、1兆3千億円です。右の図は厚生労働省のデータなので、1兆3千億円ですが、同額を自治体が負担しているので、実際の予算は2兆6千億円になります。左下の国民医療費の財務別の内訳(2015年度)の統計を見てください。この図の下は保険料収入です。保険料収入は、企業が負担するものと、個人が負担しているものに分かれます。保険料収入が約半分を占めています。図の上部が公費負担分になります。公費負担分も、国庫負担分と自治体負担分に分かれます。全体の医療費を見ると、42兆円となりますが、その25%にあたる10兆円を国が負担しなければなりません。もう一度、障害福祉サービス等予算の図に戻ってください。平成30年度で、国は50%の1兆3千億円を負担しています。それなので、国は退院をうながす方針をとっています。なぜこのようなことが起きるのか。それは医療にかかるお金と福祉にかかるお金で差があるからです。医療と比べて福祉は、相対的に、設備費と人件費が安いので差分がでます。なので、国は退院して、医療から福祉に移っていってもらうほうが、負担が減るのです。
・自治体の障害福祉計画と保健医療計画
自治体は障害福祉計画と保健医療計画の2つを作っています。保健医療計画では、年間にどれくらいの患者さんが退院してくるかという計画を立てます。障害福祉計画では、その地域に現在、どれくらいの障害者がおり、それぞれの人にどんなサービスをどれくらい提供するかという計画を立てます。しかし、多くの自治体では障害福祉計画と保健医療計画を作る部署は別なので、それぞれがバラバラの計画書を作ります。それなので、ご自身が出店する地域の障害福祉計画と保健医療計画を確認するようにしてください。精神病院に何人の患者が入院していて、そのうち何人が退院する計画なのかを突き合わせてみると、そこでどれだけの福祉サービスが必要とされるかが分かります。突合してみると、障害福祉計画上の数字が足りないことが分かると思います。ぜひ、一度、確認してみてください。
・障害福祉サービス等における総費用額及び1人当たりの費用月額の推移
(図:厚生労働省 09_参考資料_障害福祉分野の最近の動向_0120
https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000591643.pdf)
こちらの図は国保連が出している「障害福祉サービス等における総費用額及び1人当たりの費用月額の推移」です。先ほどの図(A)との違いは、Aは厚生労働省(国)が出している予算額なのに対し、こちらは国保連への請求金額となっているところです。図(A)の金額は厚生労働省(国)が出している統計なので、その金額に自治体の負担分を加算したものが、この金額(2兆3千億円)となります。
・障害福祉サービス等におけるサービス種類別にみた総費用額及び構成割合
(図:厚生労働省 09_参考資料_障害福祉分野の最近の動向_0120
https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000591643.pdf)
こちらの図に障害児者向け福祉サービスの一覧がありますが、障害者向けグループホームは、共同生活援助の部分です。これを全て足したものが、先ほどの国保連への請求金額の2兆3千億円になります。右の円形グラフ(図C)は、金額に占めるそれぞれの福祉サービスの割合です。ここでポイントとなるのは、例えば、重度訪問介護(3.4%)は対象人数が少ないけれど、一人当たりの単価が非常に高いので比率が高くなっています。生活介護(28.8%)も同様で、基本的に障害区分3以上の人しか利用できないので、必然的に報酬単価が高くなるので比率が高くなっています。逆に就労継続支援B型(13.8%)や放課後等デイサービス(11.0%)は、報酬単価はそこまで高くないけれど、事業者数が多くなっているので、占める割合が高くなっています。今は、共同生活援助(7.8%)は割合が低いですが、今後、障害者向けグループホームは増えていくので、比率が上がっていきます。比率が上がってきたときに注意しなければいけないのは、財務省などは比率を見るので、比率と各事業所収益率(収支差益)が高いサービスを狙い撃ちして報酬単価を下げることです。しかも、財務省などは、各事業所にアトランダムに調査票を送り、各事業所収益率(収支差益)を調査します。そこで、どの事業所も見栄を張って儲かっていると回答してしまいます。そうなると、報酬単価が下がってしまうので、調査票が送られてきたら、適正にコストを入れてくださいね。
とはいえ、生活介護の事業者数は全く足りていないですし、先ほど、高齢者介護の項目でお話ししましたが、重度もしくは医療依存度が高い方向けの生活介護事業所は極端に不足しています。それは、障害者向けグループホーム事業にも言えることです。今まで福祉サービスを展開したことがない人に、いきなり重度の方向けサービスをやったほうがいいとは僕は言えません。が、徐々に軽度・中度・重度の方向けサービスも展開し、事業に幅を広げていくこと、そして、それに合わせて人材を育成していくことが、長期的に見て重要になっていきます。そうすることで、会社も人材も成長します。
また、就労継続支援B型や放課後等デイサービス事業所は、ものすごく数が増えており、総費用額も増えていますが、質の高いサービスが提供されているかといえばそうではありません。ですので、しようと思えば参入する余地はあります。
先ほど、通所型の項目で説明しましたが、就労継続支援B型ならばきちんと稼げる、放課後等デイサービスではきちんとした療育を提供できるなど、コンテンツを充実させることが大切です。
・障害福祉サービス等における主なサービス種類別に見た利用者数の推移(各年度月平均)
(図:厚生労働省 09_参考資料_障害福祉分野の最近の動向_0120
https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000591643.pdf)
この図は、平成26年~平成29年度の総費用の割合を表した図です。(図C)の年度ごとの割合の推移になります。見てみると、生活介護の比率が下がってきています。しかし、障害者向けグループホームの比率は上がってきています。就労継続支援B型はあまり変わっていませんが、放課後等デイサービスの比率は倍くらいに上がっています。そうすると、報酬改定の際に、放課後等デイサービスは狙い撃ちされました。なので、比率の推移の変動には要注意です。
・障害福祉サービス等におけるサービス種類別に見た1人当たりの費用額(平成30年度月平均)
(図:厚生労働省 09_参考資料_障害福祉分野の最近の動向_0120
https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000591643.pdf)
こちらの図は、障害福祉サービス等におけるサービス種類別に見た1人当たりの費用額(平成30年度月平均)ですが、重度訪問介護サービスの数字を見てください。1人当たり643,614円の費用(月)となっています。重度障害者等包括支援を見てもらうと、805,002円(月)です。これらのサービスは非常に重度の人を対象としているので、対象となる人はそんなに多くいません。ものすごく対象者が多く、一人当たりの月額費用がこの金額だと、比率は生活介護を抜くでしょう。それを表すように、生活介護の一人当たりの月額費用は、217,785円で、重度訪問介護サービスと比べると約3分の1です。この生活介護も障害区分3以上の、一番多いパターンは週5日の利用です。私たちが今、考えている障害者向けグループホームは共同生活援助(介護サービス包括型)にあたりますが、数字を見ると、162,131円です。この金額は、国保連が集めたすべての金額の平均です。サービスの種類によって、利用する対象者が違ったり、利用頻度が変わったりします。訪問系サービスは、重度の方だと毎日利用し、時間数も長いので費用が高くなります。生活介護などの通所系サービスは、障害区分3以上で週5日利用する人がとても多いので、この金額となります。障害者向けグループホームのような入居系サービスは、利用者はホームにずっといますが、費用は相対的に低めなので、単価は安いです。
・報酬の改定率
(図:厚生労働省 09_参考資料_障害福祉分野の最近の動向_0120
https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000591643.pdf)
上の図は、平成21年度~令和元年度までの報酬の改定率の変遷です。平成21年度改定では5%まで上がり、平成24年度改定では新たにの処遇改善加算ができ、2%上がりました。平成26年度改定はイレギュラーで、消費税増税がありました。消費税が上がると、食材費も電気代も上がりますので、その分を反映させて0.7%上がりました。平成29年度改定では、処遇改善加算で1%上がりました。平成30年度は、日中サービス支援型障害者グループホーム事業ができたり、精神障害者の地域移行の推進が始まったりしたことで、0.47%上がりました。ということで、報酬単価は10年間上がり続けています。
社会保障費全体は120兆円のうち費用が40兆円、介護保険が12兆円、障害福祉が2.5兆円なので、社会保障費全体に占める障害福祉サービスの報酬比率は高くありません。まだ小さい比率なので、国は目を付けていませんが、今後、全体に占める比率が高くなった際には報酬単価を下げる可能性があります。それなので、色々な活動を通じて、大幅に下がることは防止していきたいと思っています。
・平成30年度障害福祉サービス等報酬改定における主な改定内容
(図:厚生労働省 09_参考資料_障害福祉分野の最近の動向_0120
https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000591643.pdf)
上の図は、平成30年度障害福祉サービス等報酬改定における主な改定内容です。
右側の「1.長期に入院する精神障害者の地域移行を進めるため、グループホームでの受入れに係る加算を創設」の項目を具体的にいうと、精神病院に1年以上入院している人を障害者向けグループホーム側が、精神保健福祉士など専門家がいる状態で受け入れた場合に、1年間かなり大きな報酬単価の加算(1日5,000円程度)をするという制度です。
「3.医療観察法対象者等の受入れの促進」はマニアックな領域ですが、これから大切になってくる項目なのでお話しします。医療観察法対象者とは触法障害者や累犯障害者のことです。その方たちの多くは医療刑務所などにいます。そういう方たちは、医療刑務所はいっぱいなので、普通の刑務所に入っている現状があります。
しかし、その刑務所自体も受刑者の高齢化により、パンパンになっています。刑務官が高齢の受刑者の介護をしているような現実があります。法務省のホームページに載っているので、読んでみてください(高齢者・障害者の再犯防止に関する各種施策 – 犯罪白書 – 法務省 http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/63/nfm/n63_2_5_2_3_1.html)。
そういった人たちを受け入れると、各種加算がつきます。
「障害福祉サービスの持続可能性の確保」の項目ですが、持続可能性を確保するために報酬を下げて、節税しようという内容です。この対象となったのが、放課後等デイサービスです。「報酬の改定率」のところでお話ししたように、今まで報酬単価は上がり続けています。なぜ上がり続けているかというと、障害福祉サービスの事業者の団体がロビー活動を行っていること、親の会・障害当事者の会ができ、障害福祉サービスの供給量が減ると自分たちの生活の質が下がるので色々な活動をしてくれていることが要因です。